「畳の上に一歩踏み出せ」
真の成功の秘訣
紹介:福島県にあるルーツ
私の家族のルーツは福島県にあります。私は日系四世のアメリカ人であり、私の曾祖父母は1900年代の初頭にサトウキビ畑の作業員としてハワイに渡って来ました。曾祖父母は、長時間、不利な条件の下であせみずたらして働き、日本に残して来た親戚にお金を送金しながらも、自分たち自身の生活をよりよくするために努力しました。31年前、私は初めて福島県に住む親類を訪問しました。同じ福島県出身者として自分の人生経験を皆さんと分かち合えることを光栄に思います。
私のオリンピック物
今日、私は皆さんに本当の成功の秘訣は何であるかを伝えたいと思っています。成功の基盤は、金メダルの獲得や名声、あるいは財産を所有することではありません。真の成功はより深い物です。それは心の問題です。困難にぶつかったり、試練に直面したり、挫折した時に、自分自身がどのように対応するかの問題です。東北の方々は、地震と津波の被害で 途方もない量の苦難に直面してきたでしょう。皆さんがどれほど大変な苦労をして来たか、私は理解し始めることもできません。しかし、こうした大変な状況の中からこそ、真のチャンピオンが生まれて来るものだと私は信じます。
私の人生経験は、多くの痛みを経験してきた東北の皆さんのものとは比較にもなりませんが、私のオリンピック選手としての体験、ならびに皆さんが障害や敗退を乗り越えて真のチャンピオンになるにはどうすればよいのか、それを今日はお伝えしたいと考えています。
1988年に私は韓国のソウルで、オリンピックに出場する機会を得ました。私の競技の当日、アリーナは7000 人の観客で満席でした。照明やカメラが競技場の中心の一つの畳に焦点を当てていました。18年間のトレーニングの結果、ついに世界最大のスポーツイベントで競う瞬間が来たということを、自分でも信じられませんでした。
畳に上に踏み出そうとする数分前に、私は自分の心の中で小さな声を明確に聞き取りました。「ケビン、 おまえは 今日はよくやるぞ。」その言葉に感銘して目に涙があふれて来ました。すぐに自分の顔をひっぱたいて、試合に集中しました 。対戦相手が私をコテンパにやっつけようとしているところに、私が目に涙を浮かべて、畳に踏み出して行ってはまずいと思ったからです。
四回もの厳しい予選対決の末、ついに決勝で金メダルのために戦うことになりました。世界各国からの様々な選手の中で、運悪く私の対戦相手は韓国のチャンピオンでした。 アリーナ 全体が華やかなチアリーダー、旗を振る応援団、笛や太鼓の賑やかな音楽で満ちていました。両選手の名前が読み上げられると、まるで全韓国が一斉に太鼓のリズムに合わせて足を踏み鳴らしながらを韓国選手の名前を唱えているようでした。「 金載燁(キム・ジェヨプ)、 金載燁、 金載燁!」 耳を聾するような 歓声は英語では「キル ザット バム、キル ザット バム、キル ザット バム、やつを殺せ、やつを殺せ、やつを殺せ! 」と言っているように聞こえました。その殺すべき「やつ」とはもちろん私のことです。
試合開始後しばらく、お互いに得点がありませんでした。三分ほど後に寝技に入り相手が締めに懸かってきました。それを防ごうと、このようにして相手の指を掴んだところ、私は審判に「指導」を与えられました。「指導」を受けるほどの違反行為ではなかった、という意見もありますが、とにかく相手に得点がいってしました。
残りの試合時間、何とか勝とうと必死に 戦いましたが、どうにもなりませんでした。試合終了のブザーが鳴ると、 韓国選手は金メダル獲得に感極まって、膝まづいて頭を抱えながら泣き始めました。場内は万雷の拍手と歓声で一杯です。 スタートラインに戻りながら、 18年間の柔道体験が一瞬のうちに記憶に甦って来ました。七歳の少年として 柔道を始め、中学、高校、そして大学生として練習を続け、最終的にはオリンピック決勝戦での畳上に立っている自分の姿。
その時、一つの思いが、ふと浮かんできました。「せっかくオリンピックの決勝戦まで来たんだ。オリンピックチャンピオンになるってどんな気分だろうか。」長年のトレーニングの間、よく自分を動機付けるために金メダルを獲得して両手をあげて勝利のポーズをとっている自分をイメージしました。でも勝利者の気分を味わってみる機会はもうありません。
そこで、またとないチャンスを逃さないよう、両手を挙げて勝利のポーズをとることにしました。実際、オリンピックチャンピオンになってみるのはすごく良い気分でした。 その瞬間、報道カメラマンが、両手を挙げて大きく微笑んでいる自分と、膝まづいて顔を覆っている金選手の姿を撮影しました。まるで私の方が金メダルを取った様子です。 その写真は全米を渡ってテキサス州のダラスの朝刊のスポーツ面の表紙に大きく掲載されました。 キャプションを読むと、「金メダリストは誰でしょう?アメリカ選手だと思ったら、大間違い!」
オリンピックの決勝戦では敗れましたが、私は自分の心の中では金メダルを獲得したような気がします。 チャンピオンの条件は周りの人が決めた基準に自分がどう当てはまるかではないからです。チャンピオンとは自分自身の内側から生まれてくるものです。
困難な事情や障害物に直面した時 、戦いに敗れた時 、皆さんはどうしますか。 全てをあきらめて夢を見捨ててしまいますか。それとも戦かい続けますか。恐怖心に捕われた時、皆さんはその恐怖心に束縛されて麻痺状態になってしていますか、それとも恐怖に立ち向かいながらも前進して行く勇気がありますか。真のチャンピオンは、単に金メダルを手にした人ではありません。自分の夢を探求し、人生の畳に第一歩を踏み出し、全身全霊でその夢を追求するために戦っていく人、それこそがチャンピオンです。
真の成功のための三つの秘訣
真の成功を得るための三つの秘訣を、私自身のオリンピック体験を通して皆さんに分かち合いたいと思います。皆さんへの贈り物としてブックマーク(しおり)を全員に配りましたが、この三つの秘訣を覚えておくのに役立ちます。
SEEK OUT( 探し出す):自分の夢を発見する
誰もが自分自身の内側に、自分でも想像できないような偉大な夢を秘めています。それは自分で決めるものではありません。生まれ持ってくるものです。私たち一人一人、その夢が何であるかを発見しなければならないのです。夢を発見することのできない人は平凡で満たされない人生をおくることになってしまうでしょう。
少年の頃、私の伯母が1964年の東京オリンピック記念1000円銀貨をくれました。 その硬貨を見た時に初めて、オリンピックに参加する夢を持つようになりました。その後15 年間、この夢はより大きく、より強くなり続け、最終的には夢が現実になりました。
皆さんの夢は何ですか。この人生の内に成し遂げたい、重大な意味を持つもの、それは何でしょうか。君は取るに足らない、無意味な存在だ、と誰にも言わせてはいけません。誰もが自分自身の中に偉大さを秘めています。それを自分で発見しなければならないのです。
STEP OUT(踏み出す):自分の夢を追求する勇気を持つ
実行の伴わない夢は幻想に過ぎません。恐怖心や疑念のために夢を見捨ててしまった人はたくさんいます。君は頭が良くない、君は何か欠けている、
あなたは成功する価値がない、といった嘘を信じてしまうのです。あるいは失敗することに対する恐怖感、または、未知のものに対する恐れかもしれません。その障害物が何であれ、全ては自分自身の心の中の戦いです。勇気を持って恐怖に直面し、疑問を完全に打ち消して、信頼と自信を持って第一歩を踏み出さなければなりません。
私自身も自分の夢を達成するために、オリンピックへの道程の第一歩を踏みださなければなりませんでした。よりよい生活を夢見て日本を後にした曾祖父母同様、 私も自分の夢を追求するためにハワイを発って日本に来なければならなかったのです。君は体が小さすぎるし体力がなさ過ぎるからオリンピックなんて無理だ、と言う人もいました。でもそういった言葉には耳を傾けず、自分の心に耳を傾けて、夢の第一歩を踏み出しました。
自分の夢を発見したら、それを追求するための第一歩を踏み出す勇気を持たなければなりません。年を取ってから人生を振り返って、若いころの夢を追求しなかったことを後悔したくはないでしょう。やってみなければ、成功できません。失うものは何もないでしょう。実行あるのみです。
STICK IT OUT( 頑張り通す):夢をあきらめない
夢が大きければ大きいほど、直面する障害物も大きくなります。多くの人は勢い良く夢に向かってスタートを切りますが、道程が荒くなってくると途中であきらめてしまいます。失敗したり、意気消沈して夢を追求することをやめてしまうのです。困難な状況や挫折感に左右されず、頑張り通す人こそが最終的に成功をする人です。
私が柔道のために日本に来た時、東海大学でトレーニングをすることになりました。入部直後から、自分が柔道部で最も体が小さく、体力が弱い人であることが明らかでした。 二年間、毎日チームメイトにやっつけられました。数ヶ月も発たないうちに自信を喪失し、メダル獲得どころかオリンピック出場の夢さえもほど遠く思えました。
くじけてあきらめそうになるたびに、ここで辞めては行けない、という自分の心の中の小さな声が聞こえました。オリンピックでの試合当日に聞いたあの声と同じです。オリンピック出場の夢は単なる個人の目標以上のものでした。自分の人生の目的を達成するためにはどうしても追求しなければならないものだったのです。
もし途中で諦めていたら、私は オリンピックの夢を逃してしまっていたでしょう。今日、皆さんの前に立って、夢を追求することを励ますこともなかったでしょう。
私の生徒の本当の成功物語
私の柔道の生徒の一人を、真のチャンピオンの例として紹介したいと思います。 マット・緒方君は 七歳のときに柔道を始めました。地区大会でもほとんど優勝したことのない、平均な選手でした。ハワイで柔道をする子供たちの大半は高校卒業後、柔道を辞めて大学生活、または職業に集中します。でも緒方君は異なっていました。彼は大学でも柔道を続け、エリートレベルでの試合に出場したい、と強く感じていました。ついに全米学生選手権を二連覇した緒方君の夢はシニアレベルの全米柔道選手権を制覇することでした。
今年の五月、緒方君は全米柔道選手権に出場し、予選を順調に勝ち進んでいきました。準決勝でも彼が優勢で、決勝進出は確実のように思えました。わずか20秒を残したところで緒方君の対戦相手が最後の望みをかけて投げに入ってきました。得点を取られないよう、緒方君は体を避けようとしましたが、その時に足が畳に引っかかり、足首を脱臼、骨折してしまいました。激痛とショックで畳に横たわっている緒方君の傷ついた足が足首のところから弱々しくぶら下がっている様子を見て観客も痛々しい思いがしました。45年の間柔道をやっていますが、あんなに酷い怪我は私も見たことがありませんでした。
どうしても試合を続けたい、と緒方君は担当の医師に懇願したのですが許されず、 試合は没収になり、 救急車で病院に運ばれて行きました。怪我そのものよりも、 全米選手権での優勝の機会を失ったことで彼の心は打ち砕かれたかのようでした。しかし皆さんは、この話しを聞いて、緒方君の夢が失敗に終ったと思いますか。
メダルを獲得したかどうかには関わらず、私の心の中では緒方君は真のチャンピオンです。彼は自分の夢を発見し、その夢を勇敢に追求し、決してあきらめることはしませんでした。
皆さんが人生の旅ににおいてどのような地点にいるか、私にはわかりません。まだ、自分の夢が何であるか、それを発見しようとしている段階の人もいるでしょう。人生の目的は知っているけれども、そのための第一歩をまだ踏み出していない人もいるでしょう。自分の夢を追求している途中で、疲れ果てて、あきらめようかと考えている人もいるかもしれません。
真の成功への道程のどの地点にいようと、チャンピオンの条件は周りの人が決めた基準に自分がどう当てはまるかではなく、チャンピオンとは自分自身の内側から生まれてくるものだということを忘れてはなりません。
FIND OUT 探し出す:自分の夢を発見したください。STEP OUT 踏み出す:勇気を持って夢を追求してください。STICK IT OUT 頑張り通す:決して夢をあきらめないでください。
ありがとうございました。アロハ。